2001年クリスマス記念SS
「賢者になれない贈り物」
- phamtom thief side -
「仕事」中にふと思い出す。
遥か昔の地球の聖者が生まれた日を記念したのが元になった、一年の最後を締めくくるお祝いの日――つまりはクリスマスだ――の存在を。
そんな成り立ちなんてどうでもいい。
忙しさに追われ、すっかり忘れていた。
それこそ、洒落たレストランの窓際の席でも予約できれば良かったのだが、色んな(特に懐の)事情と、もう数日という時期を考えれば不可能に近い。
おそらく夜の御馳走に関しては俺に出る幕はないだろう。
俺のすべきこと、そしてしたいことはたった一つ――俺にとって大切な女の子にプレゼントを用意することだ。
さてどうしよう……?
じっくり考えたいところだが、今は仕事の最中である。
俺は挑んでいた金庫へと再び向き直った。- hacker side -
「仕事」の最中にふと思い出しました。
もうクリスマスが間近です。ケーキはすでにクリスマスプティングを用意してます。
少し華やかさには欠けますが、洋酒をきかせたドライフルーツ入りのもので、長持ちするんですよ。
クリスマス用の料理も一応は目処がつきました。
まぁ、シャンパンとかワインは用意できませんでしたが、私はお酒に弱いのでいいとしましょう。
……いえ、純粋に経済状況の問題です。ふぅ。
あ、プレゼント。
そういえば忙しかったのもありますが、私の大切な人へのプレゼントをすっかり失念していました。
手編みで何かを作るには時間がありません。かといって……
どうしましょう……?
じっくり考えたいところですが、今は大事なお仕事の最中です。
私は警備システムの無力化に再び取りかかりました。- ferrow side -
……さて、どうするか。
困ったことに俺の財布の中には小銭程度しか入ってない。
確かに金額がどうとか言うつもりもないが、ある程度はまとまった金が欲しい。
俺の「仕事」の「技術」をちょっと使えばプレゼント資金だろうが、それこそアクセサリなんかいくらでも調達できる。
ま、無論やる気はこれっぽっちも無いが。
他人様のところから無断で頂いた物をもらったら嬉しいか?
贈った方も贈られた方も楽しい気分になれないことは確かだ。
となると、真面目に働くしかないわけだが…… さて、今までまともに働いたことない俺がどうやって一日二日で金を稼いだらいい?
とにかくコンピュータで探してみますか……- girl side -
さて困りました。
普段、百万クレジット単位のお金を扱っているとはいえ、非合法な手段――盗みという方法――で手に入れたお金です。
決して自分たちの為には使わない、と二人で決めたことですので使うわけにはいきません。
経費を除いての生活費は私のやっているコンピュータ関係のアルバイトで全て賄っています。
倹約して少しばかりの蓄えもありますが、クリスマスの料理の準備でほとんど使い切ってしまいました。
あ、このことはあの人には秘密ですよ。余計な気を使わせたくないのですから……
それにしても困りました。金額の大小で込められた気持ちが変わるわけではありませんが、やはりある程度は……
何か数日で出来るような仕事は無いでしょうか? ちょっと検索を……
あれ? 誰か先に調べてますね。このマシンに触る人は私たち二人しかいませんから間違いないなくあの人ですね。
もしかして私と同じ状況なのでしょうか? だとしたら無理だけはしないで欲しいです。
私は別に……- working man side -
「ハッ!」
俺の手から放たれた空き瓶が次々と宙を舞う。
まるで見えない糸で吊されているように危なげなく五本の空き瓶がアクロバットをしている。
落ちてくるのをまた空中に放り投げ、逆の手でまた受け取り、なんてことを繰り返す。
観客の中から感嘆の声が漏れる。俺の前の空き缶に小銭が投げ込まれ小気味いい音を立てる。
「芸は身を助ける」とはよく言ったものだ。
昔の修行の一環だったジャグリング(師匠の酒代を稼ぐためにもやったっけな)がこんなところで役立つとは。ま、俺の腕前もあの当時とは違う。ホントはもっと凄い技も見せることができるが、さすがにそこまでやってしまうと目立ってしょうがない。
俺のような仕事をしていると、目立つようなことをして顔が知られると色々マズいのだ。
そこそこ注目されて、そこそこ稼ぐ。それでいいのだ。
さ、もう少し頑張りますか。- working girl side -
この程度ではまだまだですね。
私にとっては存在しないも同然のファイヤーウォールをくぐり抜け、侵入場所を探ります。
あ、勘違いしないで下さい。
コンピュータのセキュリティ会社のサーバーに侵入する、って懸賞みたいなものです。
他の方々は苦労しているようです。ただ、あんまりアッサリ突破して下手に強化されるのもなんですし…… そうですね。買い物に行く都合もありますから二、三時間くらい様子を見ましょう。
あまりこういう仕事は好きではないのですが、手早くお金を稼げるのがこれしかなくて……
あ、いけない。チキンの下ごしらえが……- thinking man side -
さて、思ったより稼げそうだが…… これからの問題は何を買うか、ってところか。
アクセサリーはあまりつけない方だし、服というのもなんかアレだ。
実用的な物、という手もあるが、クリスマスにそういうもの、というのも洒落てない。
さて…… と。
ん? んん?!
ヌイグルミかぁ…… よく考えれば、ってよく考えなくても普通の女の子だよな。
置き場所があるかどうかは別として、こういうのも悪くないかな?
予算の問題もあるが、思ったよりも高くない。
というか、この一抱えもあるようなクマも今日もう少し頑張れば買えるな。
でも残り二つか。よし、急いで稼ぐぞ!!- thinking girl side -
いつも「仕事」で使っている架空口座に賞金が振り込まれました。
さて何にしましょう? とりあえず足りない材料もありますので街に出るとします。
男の人って何を喜ぶのでしょう?
「仕事」の邪魔になるからって、アクセサリーはほとんど身につけないし、オシャレですから服というのもよいかも知れませんが、私が贈るとなるとちょっと違うような気も。
そういえば銃のバレルがどうとか言ってましたが、そういう実用品というのも夢が無いですし、「必要経費」で落とせるものですから。
難しいものですね……
? なんでしょう? あの人だかりは?
……どうやら大道芸か何かをやっているようですね。
え? ええっ?! あそこでジャグリングをしているのは……
あ、終わったようです。ぺこりと頭を下げて、集まったおひねりを集めてそそくさと去っていきます。
……ちょっと追いかけてみましょう。普段なら尾行なんてすぐに気付いてしまう人ですけど、今日はなんか急いでいて周りに注意を払っている余裕がないようです。
悪趣味でしょうか、私?- knight side -
さぁて。必要金額も達成しましたし、あのお店に向かいますか!
あ、今出てきた品の良さそうな老夫婦が大きい紙包みを持ってるな。孫へのプレゼントかな? あれで最後でなければいいが……
ありましたありました。まさしく最後の一つ。こいつをレジに持っていって……
ん? そうそう。リボン頼むよ。え? 誰にプレゼントかって?
俺が子供がいるような年に見えるか? まぁ、確かにいてもおかしくないのかも知れないけどな。
いや、聞くなよ。そうは見えないかも知れないが、俺もちょっと緊張しているんだぜ。
喜んで貰えるかどうか、ドキドキものさ。
え〜と、これで足りるな?
……なんだって? 消費税?! マジか…… それだと足りねぇ……
え? このカードを作ると割引サービスが? 入会金も年会費も無料。お、それなら足りる。ふぅ、危なかったぜ。
よし。このプレゼントをあのお姫様は喜んでくれるかな?- knight side again -
おや。さっきの老夫婦だ。
お爺さんが大きなクマのヌイグルミを抱えてヨタヨタと歩いているが、二人揃って幸せそうな笑顔を浮かべている。
まぁ、俺には子供も孫も持ったことないからそんな気持ちは分からないが、「大切な人」にプレゼントを贈ろうとする気持ちは分かる。きっと今の俺の顔にも同じような笑みが浮かんでいるのだろう。
……ん? なんか車の音が聞こえるな。こんな街中なのに凄いスピードだ。
やれやれ。年の瀬だというのにせわしないな。
っと。見えてきたな。
真っ昼間から酒かクスリでもやっているのか? あれなら遠からず事故るな。自爆するならともかく、人通りの多い街中じゃあ誰か彼か巻き込んでしまう。
しょうがない。止めるか。
……! ヤベェ。さっきの老夫婦の渡ろうとしている横断歩道に突っ込もうとしている!!
間に合うか…… やってみるしかねぇ!!
クマを左腕に持ち直し、残り少ない小銭(苦笑)を軽く握った右拳の人差し指の上に置き、指先ではじく。
いわゆる「指弾」ってやつだが、俺が本気でやったら撃ち出す物にもよるが、車のボディぐらいは簡単に貫く。が、今回の狙いはそこじゃない。
放った数枚のコインが暴走車のフロントガラスを撃ち抜く。一瞬にして蜘蛛の巣になった視界に驚いてハンドルを切るドライバー。老夫婦の寸前を横切り、路上駐車していた車に突っ込む。
あの音なら大して壊れてないな。ちっ……
って、あの老夫婦は、と…… お、一応は無事だな。
けど、あのプレゼントが轢かれてしまったか……
……何考えている俺。これはその…… アレだぞ。けど……
見るも無惨になってしまった包装紙の前で呆然と悲しそうな表情をする老夫婦。
あ、さっきの暴走車が逃げる。やっぱり大したこと無かったか……
…………
…………
…………
ああっ!! そういうことかよ!!
悪かったよ! 俺みたいのがちょっと慣れないことしたのが悪いんだよな、ああっ?!
ツカツカと名前も知らぬ老夫婦の前に自分の包装紙をドンと置いて、相手が何も言い出す前に走り出す。
何をするかって? おいおい、野暮な事を聞くなよ。
……交通ルールは守らないとな。- princess side -
……一部始終見てしまいました。
クマのヌイグルミを嬉しそうに買って、暴走車から老夫婦を守って、そして壊れたプレゼントの代わりに自分の物を渡して……
それから後は見てませんが、やることは分かっています。死なない程度に手加減しておいて下さいね。
「……あの、大丈夫ですか?」
老夫婦に声をかける。
目の前を車がよぎったショックがまだ完全におさまってないようですが、だいぶ落ちつかれたようです。
「え、ええ…… でもこれはどうしましょうか……?」
困ったように大きな包装紙を指さすお婆さん。う〜ん、困りましたね……
あ、そうです。
「あの、さっきの人……」
自分で言って、ちょっと怪しくなります。けど、一年に一度くらいこういうおとぎ話があってもいいと思います。
「実はサンタさんなんです。今晩大忙しだからって逃げ出したんですよ。それで見習いサンタの私が彼を追いかけているんです。
ですからそれはサンタさんからのプレゼント。見習いですが、私が保証します。大事にして下さい。」
早口で捲し立てて、それではとペコリと頭を下げて逃げるように走り去ります。
……ちょっと恥ずかしかったです。
そうだ。決めました。あの人への「プレゼント」
- lovers side -
「あ、お帰りなさい、ジーク。」
結局あれから出来る限りの範囲で何か調達しようかと思ったけど、やっぱり無理だった。
失意の内に家に(というか、トレーラーハウスみたいな物だが)に戻ると、上機嫌のジャニスが出迎えてくれた。
「あ、えっとぉ……」
上機嫌の理由がサッパリ分からない。
「寒かったでしょ。料理は準備できているから、冷めない内に食べましょ。」
「あ、ああ……」
どうしたんだ?
すでにリビングからは美味しそうな匂いが漂ってくる。
……テーブルの上は凄い御馳走だった。
いや、別に高級な材料が使われているわけではないのだが、まさに腕によりをかけた料理がたくさん並んでいる。
「クリスマスくらい豪勢にいきましょ。ね?」
と、ワインの瓶を傾ける。反射的にグラスで受け取って自分の前に置く。幸か不幸か、ジャニスはジュースのようだ。
『乾杯。』
チン、と二つのグラスが小さく鳴った。「あの…… そのだな。」
「どうしたの?」
ニッコリ微笑まれて、思わず見とれ言葉を失いそうになる。
「いや、実は……」
言うしかない。
「ホントはプレゼントを用意しようかと思ったんだけど……」
「うんうん。」
何か分かっているような顔で頷くジャニス。
「思ったんだけど……」
「できなかったんでしょ?」
「え……?」
「でも大丈夫よ。もう素敵なプレゼントをサンタさんにもらったから。
だから私もサンタさんに腕によりをかけて御馳走を振る舞ったの。」
……何がなんだか分からない。
「それにね……」
と、俺にもたれかかってくるジャニス。
「一番欲しいものはいつもそばにいるから……」恋人達の聖夜。
一番の贈り物はお互いの存在なのかも知れません。−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
一組の男女が街を歩いています。
若者の首には小さなロケットが。
少女の左手には小さな指輪が。それはホンの安物なのかもしれません。
でも……ロケットには宇宙一の笑顔が。
指輪には宇宙一の思いが。だから何よりも価値のあるプレゼント。
決して賢者にはなれない二人ですが、
「一番大切な物」を知っています。聖夜に優しき祝福を……
メリークリスマス