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2000年クリスマス記念SS
「サンタクロース」

 

♪ Jingle bells, jingle bells,
  jingle all the way!
  O what fun it is to ride
  In a one-horse open sleigh

 街中にクリスマス・キャロルが流れる。
 ストリートはまさにクリスマス一色。今日はそのクライマックス。
 イヴの街角は恋人達で溢れていた。きっと夜まで時間を潰し、二人きりで洒落たレストランでのディナー。シャンパンを楽しんで、その後は二人きりの夜……
 そんな甘い空気が感じられそうな中を二人の男が仏頂面で歩いていた。
 仏頂面というのは正確ではないが、眉間にしわを寄せ悩むようにあちこちに血走ったような目を向ける。
 それだけでも異様な光景で周囲の人の注目を浴びそうなのだが、片方が背の高いハンサム男。そしてもう一人がそれよりも大きい、まさに天をつくような筋肉男だったりするから余計に目立ってしまう。
 しかし二人は気にした様子もなく、何かを探すように首の運動をしていた。
『困った……』×2
 揃って大きなため息をつく。
 ……さて、これでは話がサッパリ見えないでしょうから、簡単に説明するとしましょう。
 ハンサム男の名はヒューイ=ストリング。筋肉男の名はカイル=ミュラー。
 二人はGUP(銀河連合警察)の誇る(?)A級捜査官。宇宙を股に掛け、犯罪者を叩きのめす恐れ無き強者だ。
 そんな二人がため息をつき、悩みに悩み抜いている。その理由は一体……?
 って、時期を考えれば分かるのですが、二人の悩みというのは、
うわぁぁっ、プレゼントが決まらん!!』×2
 彼らの所属するチーム・グリフォンは地球時間で23日の深夜に地球から遠く離れた星系での任務を終了し、そこから無理矢理24日の早朝に戻ってきたのだ。
 そして彼らのチームにいる二人の少女にプレゼントを、と思っていたのだが、それまで選ぶ余裕が無く、この時期になって慌てて探している、というわけだ。
 内輪でのクリスマスパーティの料理は夕方にもできあがる。もう残り時間は四時間ほどしかない。
「よし、決めた。ラシェルの分はジェラードに任せる!」
「いいアイデアだヒューイ。そうすればリーナちゃんの分だけでいいぞ。」
 はい、ここで補足。チーム・グリフォンはヒューイとカイルに加えて、自称宇宙一の科学者ジェラード=ミルビット、そのジェラードの研究所で住み込みの助手をしているアイリーナ=コーシャルダン、それに女子大生で(一応)お嬢様のラシェル=ピュティアの五人が構成メンバーである。この五人にこれまでどういういきさつがあったかは今回は割愛しておく。
 そんなわけで、一瞬の判断で選択の厳しさを半分に減らした二人は、残り時間を気にしながらプレゼントを探し出した。
 本当はジェラードも同じように探さなければいけないはずなのだが、「ちょっと私は他に用意する物がある」とどこかへいなくなっていた。すでに目星をつけているのか、もしかしたら用意まで済ましているのか……
「くそっ、俺は走る!」
 いきなりそう宣言すると筋肉が躍動し、大地を蹴った。
 どうやらヒューイと二人で探していてもラチがあかないと思ったのだろう。体力任せに探す手段を選んだようだ。筋骨粒々で大男なので鈍重な感じがしないでもないが、鍛え方が段違いなのでそんなことはない。まさに消えるが如くの走り方だった。
「…………」
 どうするかな、と街をさまようヒューイ。
 と、目についた一軒のブティック。
(服か……)
 頭の中で色々シミュレート。ショーウィンドウに飾られている服をいつも柔らかい笑みを浮かべる少女に重ねてみる。
(う〜ん…… 今一つか?)
 とはいえ、女の子の服の目立てなんか出来るわけもなく、唸るだけ。
「はいはいはいは〜い。そこのおに〜さん。」
 そこにいきなり陽気な声がかけられた。
 ブティックの店員らしい女性が入り口から顔をのぞかせて、ヒューイに向かって「おいでおいで」している。
「何悩んでるか知らないけど、プレゼントの相談ならあたしが乗るわよ〜」
 ちょっと間延びしたしゃべり方と目を細めてクププと笑う表情が怪しげだが、悩める男のズバリ核心をついて、まるで催眠術にかかったようにフラフラと店の中に入れられる。
 女の子でも目移りしそうな店の品揃え。男のヒューイならまさに異世界だ。
「で、どんな娘にプレゼントするの?」
「え?」
「またまた〜 男がこんなところで、こんな時期に悩んでるなんて、可愛い女の子にプレゼントをする物を考えている以外に何があるのよ〜?」
 口元に手をあててクププと笑いながらも、ヒューイを値踏みするように上から下まで眺める。
「ふ〜ん、ちょっと危険な仕事をしてるのね〜 大丈夫? ちゃんとその娘、守ってあげてるの〜?」
「あ、ああ、いや……」
 すっかり飲まれているが、不意に店員が表情をちょっと真剣なものに変える。
「ま、からかうのはこれくらいにして。
 あんまり時間がないわね。ホントにどういう娘? 懇切丁寧にお教えいただければお見立ていたしますわ、お客様。」

 彼女の見立ててくれた服は高価だったが、満足のいくものだった。これならリーナも喜んでくれるだろう、と勇んでいると、向こうから何か巨大な物が歩いてくるのが見えた。
「よぉ、ヒューイ。決まったのか?」
 その巨大な物体が口を開いた。
 よく見るとそれは巨大なデパートの包装紙のかたまりを背中に背負ったカイルだった。その巨体よりわずかに小さいくらいの包みには、プレゼントらしいリボンがかけられている。
「ほぉ、お前は服か。」
「そういうお前は?」
「俺か? 女の子ならやっぱりヌイグルミかな、てな。
 デパートに行って一番でかい奴を買ってきた。どうだ?」
「どうだ、ってなぁ…… そんなに大きいの、リーナちゃん持てるのか?」
「まぁ、細けぇことは気にするな。よし、決まったから戻るぞ。」
「そうだな。」
 日も傾いてきている。それに押されるように研究所までの道を歩いていると、何か騒いでいるのが見えた。それどころか消防車のサイレンも聞こえる。
「……火事だな。」
「……そうだな。」
 二人が見上げると、高層ビルの中腹で炎の下が蠢いていた。
「火は消防に任せればいいよな……」
「んだな……」
 高いところのせいか、消火に手間取っているようだ。だが時間をかければ消し止められないことも無いだろう。
 しかし、その燃えている上あたりでは逃げ遅れた子供が助けを求めているのが見えた。
「あれは…… おそらくセキュリティが誤作動をして、上にも下にも逃げられなくなったようだな……」
「ああ、間違いねぇ。」
 二人とも頭を使う仕事はジェラードやリーナに任せてあるとはいえ、これくらいのことなら想像は簡単につく。
「見なかったことにして…… っていうアイデアはどうだ?」
「なぁ、ヒューイ、冗談なら今の内に訂正しておけ。」
 急ぎたいのも、荷物を持っているのも重々承知している。ただ、人として見過ごすわけには行かない。
「だな。俺はアレを見捨てて、リーナちゃんの前に顔を出す自信がない。それなら遅れて謝った方がずっとマシだ。」
「同感。」
 ヒューイとカイルは大きなため息をついてから、路地裏に向かう。
 周りに人気がないことを確認して、持っていたプレゼントを地面に置く。
「持ってかれないかな……?」
「でも緊急事態だ。置くしかないだろう。」
 もう一つため息をついてから、腕時計兼用の通信装置を構える。
「……静かにやるしかないな。」
「マジか? 俺、あれのドッカーンってぇのが好きなのによぉ。」
「いいから、いくぞ。」
「おぅ。」
サイレントアップ!
 二人同時に叫んで、腕時計のボタンの一つに指を乗せる。
 ジェラードの開発した特殊転送システム。通常は装着に時間がかかる強化装甲服――言い方を変えればパワードスーツを瞬時に装着させるシステムだ。
 転送位置の固定の為に特定のポーズを、そして誤作動を防ぐために所定のキーワードを必要としている。半分はジェラードの趣味なのだが……
スカイナイト!
キャプテンボンバー!
 空気から滲むように二人の体に鋼の装甲が装着される。普段は周囲の障害物を排除するために衝撃波や、目を眩ませるための閃光も発せられるのだが、今回はそれは無しだ。
 ヒューイは高起動飛行型、カイルは重武装型の強化装甲服。無論、その装甲強度も武装も通常のモノとは比較にならないほどの高性能。それこそ軍隊を相手にしても一歩も引かない能力だ。
「よし、まずは炎の勢いを殺すぞ。」
「おう、いっちょ頼むぜ!」
 ヒューイがカイルの装甲服を掴むとそのまま空に舞い上がる。
 そして燃えているビルまで着くと、その燃えている灼熱地獄の中にカイルを放り込んだ。
 ヒューイもまた、適当な窓から炎の中に飛び込む。
 戦闘用にも作られているが、人命の救出もA級捜査官にはありうるので、可能な限りの装備が搭載されている。更にはそれだけでは対応しきれない場合は同様の転送システムで必要な装備をいかようにも換装することができる。それこそジェラードの超技術をつぎ込んだ宇宙最強の装甲服だ。
 激しい炎もモノともせず、二体の装甲服が駆け抜ける。その途中内蔵のセンサーが火勢を判断、適切な消火方法を指示。更に生体反応を探し、炎の中に生存者がいないかどうかも検索。
 二人が五分ほど、ビルの中を走り抜けるだけで、相当の炎が勢いを消した。
「そろそろ上の生存者に向かった方がいいな。」
「おおよ!」
 炎で熱くなってきた表面を液体窒素で冷却し、壁や天井を粉砕するようにして上階に向かう。
「大丈夫か!」
「助けに来たぜ!」
 どうやらビルの中で遊んでいたために逃げ遅れた子供が五人、泣き出しそうになるのを堪え固まっていた。二人の姿を見ると、パァっと表情が明るくなる。
「よし、よく頑張った。」
「坊主、こいつらを守ってたんだな。偉いぞ。」
 カイルがゴツイ鋼の手で、一番年上の男の子の頭に手を置く。
「大きくなって強い男になれよ。」
 火勢が弱まったとはいえ、そろそろこの辺もやばい。
 ヒューイが腕に搭載されているビーム砲で、カイルが拳で壁と窓を粉砕。
 そしてヒューイが二人、カイルが三人の子供をかかえると、窓から飛び出した!

「ふぅ、疲れたぜ。」
 ヒューイの装甲服は空が飛べるモノだが、カイルのはそうではない。
 カイルは数十階のビルから飛び降りて、一応姿勢制御用のバーニアがあるのだが、それでも殺しきれない程の衝撃を二本の足で支えたのだ。それで脚部のサスペンションを壊したのは秘密であるが。
「…………」
 そんなわけで、子供達を救出して駆けつける群衆やマスコミから逃げ出して、元の路地裏に戻ってきたのだが……
「…………」
「ん? どうしたヒューイ?」
 声をかけられるまで黙っていたヒューイがガクリと膝を折り、力無く前方を指さす。
「ん……? どうした? 何もねぇじゃないか……
 って…… なにぃぃぃぃぃぃっ!!!
 路地裏に絶叫が響く。
 そう、そこには何も無かった。さっき買ってきた二人のプレゼントも……
 世知がない世の中とはいえ、なんともまぁ……
 しかも、今ので時間をかけすぎて店も開いていない時間になってしまった。
 トボトボと失意のまま、ジェラードの研究所に向かう二人だった。

「ヒューイさん、カイルさん、いらっしゃいませ。」
 落ち込んだ二人を迎えたのはリーナのいつもの笑みだった。
 その笑みが逆に二人の気持ちを更に沈ませる。
「……? お二人ともどうなされたんですか?」
「いや…… なんでもない……」
「ん、まぁ…… ちょっとな。」
 二人の態度の理由が分からないのか首を傾げながらも二人をリビングに通す。
「遅かったじゃないか。」
 と、出迎えたのはいつもつまらなそうな顔をしている白衣の博士、ジェラード=ミルビット。ここミルビット研究所の主だ。テーブルの上には食べられるのを今や遅しと待ちかまえている沢山の料理。
「やっと来た〜 あたしお腹ペコペコよ。女の子を待たせるなんてひどいわね。」
 と、最後のチーム・グリフォンの一員、ラシェルも同じテーブルで二人の到着を待っていた。
「リーナちゃ〜ん、料理お願い〜」
「は〜い、少しお待ち下さい。」
 キッチンの方からかぐわしい香りが漂ってくる。ただでさえ、火事で人命救助をしていた上に、見あたらなくなったプレゼントを探し回っていてお腹を空かせていたヒューイとカイルがグゥ〜と腹の虫を騒がせる。
 それを更に加速させるようにワゴンに次々と湯気の立ち上る料理が運ばれてきた。
 各自のグラスにシャンパンがつがれる。ロウソクの明かりが揺れる中、グラスが澄んだ音を響かせた。
 ……と、パーティが始まると抑えられた食欲が解放されたのか、まさに嵐のように食事が進んでいく。と、これが落ちついたのはテーブルの上の料理があらかた無くなってしまってからである。
 これまたリーナのお手製のケーキを前に、コーヒーを楽しんでいると、ちょっと席を外していたジェラードが戻ってくる。
「リーナ。」
「はい?」
「これ、つまらんものだがクリスマスプレゼントだ。」
「え……?」
 と、包装紙に包まれた物を手渡す。
「あの…… 開けてみてよろしいですか?」
「どうぞ。」
 リーナが丁寧に包装紙を開くと、何かのケースのような物が現れる。何かに気付いたようにジェラードを見ると、口元をわずかにあげて笑みを見せる。
「なんかな、前に欲しそうな顔してたしな。」
 言われて、ちょっと恥ずかしそうにするが、そのままケースを開く。予想通りの物があったのか、パッと顔を明るくする。
「あ、ありがとうございます。博士……」
「しかし…… つくづくリーナは欲がないなぁ。欲しいものが高級包丁セット?
 もう少し服が欲しいとか、縫いぐるみが欲しいとかあるもんじゃないか?」
 いきなり聞き覚えのある単語を聞いて、ヒューイとカイルがギクリと身を震わせる。
「いえ……」
 喜びで頬を紅潮させたリーナが大事そうに包丁の入ったケースを抱えると嬉しそうに微笑む。
「私、これホントに欲しかったんです……」
「まあ、いいじゃないの、ジェル。リーナちゃんらしくて。」
「左様ですか…… あ、これはラシェルに。とりあえず思い付かなかったので適当にしました。」
 相変わらずの減らず口を叩くジェラードだが、白衣の懐にしまっていた小さな包みをポニーテールの少女に手渡す。
「開けていい?」
「ダメって言っても開けるでしょ?」
「まあね……」
 そんな二人のやりとりをリーナはニコニコしながら、ヒューイとカイルはちょっと離れた所から見ていた。
 ガサガサと包装紙を解く音。その紙の下からは小さな箱。
「何? 万年筆……?」
「……のように見えますが、キャップを捻ってから投げつけると三秒後に半径五キロぐらいが消滅するくらいの強力な爆弾に……」
「あんたの場合、シャレにならないからそーゆー冗談は止めて。」
「……まあ、このご時世、万年筆なんて単なる装飾品ですがね、どうもアクセサリーとかはイメージがわきませんで……」
「いや、気に入ったわよ。ありがとう、ジェル。」
「で……」
 ジェラードが肩身の狭くなった二人に視線を向ける。
「さっきから二人とも静かだが、どうした?」
「あ、ああ……」
「いや、そのな……」
 言い出そうにも言い出しづらく、ついつい口ごもってしまう。
「あの…… 私、その気持ちだけで嬉しいです。」
 その言葉の意味が分からずに顔を上げると、ジェラードは呆れたように口元を歪める。
「大体なぁ…… お前らが装甲服を使ったことを知らないと思ったのか?
 ったく、カイルは豪快に足を壊すし……」
「いやぁ、ジェラードの作った奴だから何とかなる、ってな。」
「勝手なこと言うな…… もう少しでお前の足も砕けてたろうし、せっかく助けた子供を危険にさらしてどうする……」
「そうですよ。あまり無理をしないで下さい……」
 リーナが怒ったような、悲しそうな顔をする。
『悪かった。』×2
 素直に頭を下げる。
「でも…… ホントにゴメンな。ちゃんと俺たちもプレゼント用意してたんだけど……」
「……ええ、欲しくなかった、といえば嘘になりますけど、でも私は皆さんとこうしてパーティが出来たのが一番のプレゼントです。」
 そして、ヒューイとカイルにとっては、その笑顔が一番のプレゼントだった。

 楽しかったパーティも終わり、誰もが寝静まった深夜。
 リーナはふと何かの気配を感じて目が覚めた。
 体を起こし、部屋の中を見回す。
 いつもと何も変わりない部屋。強いて違いをあげるとするならばすでに明かりの消されたクリスマスツリーだろうか。そこに何かの人影が見えた。
 大きな体に赤い服。背中に大きな袋。
 それこそ、絵本にもでてきそうなサンタクロースの姿だった。
「おや、見つかってしまったかな?」
 振り返ると真っ白な髭に覆われた穏和な顔がにこやかに笑っていた。
「あの…… もしかしてサンタさんですか?」
「いかにも。……てね。ホントは見つかっては良くないんじゃがな。」
「まぁ…… こんな遅くまでご苦労様です。」
 ペコリ、と頭を下げるリーナにそのサンタはおかしそうに笑った。
「いやいや…… 儂はこれが仕事じゃからな。」
「でも、この研究所には子供はおりませんよ。」
「じゃが、お嬢ちゃんは子供のように心が綺麗じゃからな。でも…… お嬢ちゃんに会うのは始めてじゃな……」
「ええ、そうですね……」
 ちょっと目を伏せて答えるリーナ。
「まあよい、と言いたいところじゃが…… 決まりでな、子供にしかプレゼントはあげられないのじゃよ……」
「私は…… もう沢山もらいましたから。」
 嬉しそうに言うリーナにサンタは目を細める。
「困ったなぁ…… お嬢ちゃんのような子には是非ともプレゼントをあげたいのだが……
 おお、そうじゃ。『貰えるはずだったプレゼント』ならなんとかなるぞ。」
「いえ、そんなお気遣いなく。」
「まぁまぁ、気にするでない。これまでお嬢ちゃんに何もあげられなかった儂らの気持ちということで……」
 と、袋をゴソゴソと探ると、その袋よりも大きい包みを取り出す。それはリーナの体よりも大きな物だった。
「まずはこれ、と……」
 もう一度袋に手を入れると、一つの箱を取り出した。
「そしてこれだ。さ、何も言わずにこれを受け取ってもらえんかの?」
「……はい、分かりました。受け取らせていただきます。」
 さすがに断るのも悪いと思ったのか、二つのプレゼントを受け取るリーナ。
 うんうん、と孫を見るような優しい目をすると、サンタはまた袋を担ぎなおした。
「それじゃあ儂はまだまだ仕事が残っているからな。失礼させてもらうよ。」
「はい、サンタさんもお気をつけて。」
「その綺麗な心、決して忘れんようにな。それじゃあメリークリスマス!」
 サンタは部屋の窓を開けずにすり抜けていった。それを見送っていたリーナだが、外にわずかに鈴の音を聞いたような気がして、窓に近づく。
 夜空に空飛ぶソリが見えたような気がした。

 

「……ということがあったんです。」
「サンタさん、ねぇ……」
 リーナちゃんは嘘をつかない、ってことは分かっているけどどうも半信半疑。
 でも、リーナちゃんよりも大きい熊の縫いぐるみも、今着ている新しい洋服も幻ではない。
 クリスマスの朝。ちょっと早めに起きたら、リーナちゃんが嬉しそうに朝食の支度をしているところだった。で、理由を聞いてみたら、というわけなんだけど……
 もしかしてジェルかなぁ? ああ見えても結構マメな所もあるし……
「よぉ、おはよう、リーナちゃんにラシェル。」
 朝っぱらから元気な筋肉男が食べ物の臭いにつられたのかやってきた。
「カイルさん、おはようございます。」
「おはようさ〜ん。」
「お、リーナちゃん、今日はえらくご機嫌だな。」
「ええ、」
 嬉しくて誰かに話したくて仕方がない、って表情をするリーナちゃん。
「昨日サンタさんがきて、大きな熊さんのヌイグルミに、この服をいただいたんです。」
 その言葉にカイルが表情を変える。
「大きな熊の…… ヌイグルミに、服……?」
 いきなりきびすを返すとどたどたと足音を響かせて走り出す。
「おい、ヒューイ! ヒューイ! いいからちょっと来い!」
 そんな声が聞こえてきたかと思うと、もう一つ足音が増えて戻ってくる。
「なんだよ朝から騒がしい…… ってぇ! リーナちゃん、その服?!」
 やってきたヒューイも目を白黒させている。どうしたんだ、こいつら……?
「さっきから何よ……」
「……昨日、俺たちがリーナちゃんにあげるはずだったプレゼントをなくした、というのは言ったよな。」
「うん。」
「俺が熊のヌイグルミで……」
「俺がその服、だったんだ。」
 はい?
「なんだなんだ…… 朝から。やかましくて目が覚めたじゃないか。」
「あ、おはようございます、博士。」
「ちょっとジェル……」
 あたしはチョイチョイとジェルを指招きする。
「なんですか?」
「ねぇ、あんた昨日の晩、リーナちゃんにサンタの格好してプレゼント持ってった?」
「は? なんのことです?」
「え? だって……」
 と、リーナちゃんの話をジェルに聞かせる。
「…………」
 ちょっと考え込んでから、研究所内のセキュリティを調べる(らしい)。
 しばらくすると、不思議そうに肩をすくめた。
「昨晩の午後十時から今の今まで、研究所内に侵入者の反応は全くなし。更にいえばレーダーも何も飛行物体を捉えていません。」
 フッ、と笑みを浮かべる。そして、その昔ですがね、と前置きをして、ジェルが話し始めた。
「まだ人類が宇宙に出るだけでも大変だった頃、レーダーにも映らない、それこそ宇宙飛行士だけが見た摩訶不思議な物体を『サンタクロース』と称していたそうです。
 世の中にはまだ科学では証明できないことがあるわけで……」
 と、科学者らしくもないことを言い出すジェル。
「でもですね、」
 後ろを振り返る。そこでは服を褒められて照れているリーナちゃんがいる。その顔はとても嬉しそうだ。
「あの笑顔を得るためなら、科学でなくてもいいわけですよ、私は。」
「……たまにジェルっていいこと言うわね。」
「たまにとは失礼な。そういうことを言うからラシェルの所にはサンタが来ないんですよ。」
「……いいわよ、別に。
 そのかわり…… これからジェルがあたしのサンタさんになってくれる?」
 あたしの言葉にジェルが視線を宙にさまよわせる。
 そして小さくため息をついてから、一言。

 ――善処しましょ。