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2004年クリスマス記念SS
「そんな夜の空で」

 

 

「♪ You better watch out.You better not cry.Better not pout.
   I'm telling you why.
   Santa Claus is coming to town.」

 うきうきしたようにツリーの飾り付けをするリーナちゃん。綺麗なソプラノが冬の空に吸い込まれていく。
 ホントはもっと早くから飾りつけしたかったんだけど、チーム・グリフォンとしての任務で帰ってきたのが23日。さすがのジェルでも時間を巻き戻すことは…… できないよね? う〜ん、否定しきれないのが怖い。
 ま、そんなわけで、今日24日のミルビット研究所は慌しく…… というほどでもない。研究所の中にはあたしと、リーナちゃんと、執事のセバスチャンしかいない。他の男衆は買出しに出かけている。……おそらくクリスマスのプレゼントも用意する暇も無かったのだろう。なかなか時間がかかっているようだ。さてさて、何をもらえるのやら。
 で、こっちはこっちで今晩のクリスマスパーティの準備。リーナちゃんは朝から料理に飾り付けに忙しい。セバスチャンも掃除を兼ねて色々準備をしようとして、ツリーすら出してないことに気付いたわけだ。
 ま、そんなわけで、ケーキを焼いている最中に、手ごろな樹に来てもらって──変な表現だけど間違ってないわよ。ミルビット研究所のある広大な公園には犯罪防止等の為に樹型のロボットがあちこちに配置されている。見かけは全く普通の樹なので、それに気付かなかった哀れな犯罪者は樹に追いかけられて捕縛されることも。つーか、そこら辺のベンチや岩、街路灯もいつ動き出すかと思うと結構怖いぞ──突撃強襲装甲車のランドタイガーの作業用アームにリーナちゃんが乗って飾り付けをしている。そういうのをあたしが下から見ている、というわけだ。あたしだけだからいいけど、スカートは気を付けた方がいいわよ。
〈あ、リーナさん。そちらの方が少し寂しい感じがしますぜ。〉
「そうですね。あ、ラシェルさん、そちらの飾り取ってもらえますか?」
「あ、はいはい。」
 浮かれているリーナちゃんと違ってこっちは少々気が重い。
 うちのお父様(なんか言い馴れない呼び方だ)はいつかも話したと思うけど、ある財団の会長だったりする。普段は気ままな女子大生兼GUPのA級捜査補佐官なんかやっているけど、こーゆー時にはやっぱり会長令嬢として、気の乗らないパーティに出席しなければならない。
「……あら? ラシェルさん、ご存じないんですか?」
「何を?」
 言ってからしまった、という顔をするリーナちゃん。
 彼女が何か言い出す前に、素早く「命令」を飛ばす。
「タイガー! アーム下ろして!」
〈へい。〉
 あわあわとした表情のリーナちゃんがゆっくり降りてくる。普段の素直な性格が災いしてか、何かを誤魔化そうとする行動は苦手である。
「さ〜て、リーナちゃん。あのバカタレが何か企んでいるわけ〜?」
「いえ…… あの…… その……」
 語尾が尻すぼみになる。と、
「アイリーナお嬢様。そろそろ頃よい焼き具合にお見受けしましたが?」
 不意に背後からの声。振り返らなくても分かるんだけど、一部の隙も無い究極執事のセバスチャンが立っている。
「あ、そうですか? それではすみませんが、出しておいてもらえますか?」
「畏まりました。しかしアイリーナお嬢様、実に楽しそうですな。」
「ええ、だってクリスマスって初めてですから。」
 ……そういえばそうよね。リーナちゃんって見かけ十七才くらいだけど、ホントは生まれて一年にも満たない──ま、色々事情があるのよ。とりあえず聞き流しておいて──から、今回が初めてなのよね。
「私のところにもサンタさん、来てくれるといいなぁ……」
 と、子供っぽい表情を見せる。こういう純真さ、ちょっと羨ましいかも。
「アイリーナお嬢様なら、大丈夫でございますぞ。このセバスチャンが保証いたします。」
「そうね。……で、リーナちゃん、何かお願いしたの?」
「ええ…… でも他の人に教えるといけない、って博士が。」
 ……さてはあの男、リーナちゃんにも何か企んでいるな。ま、考えられないことではないけど。それは見逃すとするか。
「あ、いけないですね。急いでツリーの飾り付けをすませないと……」
 と、またリーナちゃんは上に行ってしまった。
 ……あ、はぐらかされた。
 そう思って執事の方を見ると、チャーミングなウィンクをされた。やるな、この執事。
 あ、いかん、あたしもそろそろお偉方の集まる「パーティ」とやらに行かないと。
 ああ、リーナちゃんの料理がぁ……
 ずっしり重い気分でミルビット研究所を後にした。

 

 各界の名士が集まるパーティ会場。
 その中で一人の少女がうんざりとした表情をしていた。
「おや、どうした、我が愛娘よ。」
 と正装に身を包んだ紳士が両手にシャンパングラスを持ってやってくる。
「そんなところで『壁の花』をやっているなんて勿体無いな。」
「あ〜 もう、こんなパーティ抜け出したい〜」
 人目をはばかってか、小声で愚痴をもらすと、紳士は小さくニヤリとした笑みを浮かべた。
「気持ちは分かるよ。私もこんなうわべだけのパーティはウンザリだからね。でもそういう正論はなかなか通らないものだよ。」
 紳士の言葉を予想していたとはいえ、改めて現実を突きつけられると疲労が増してくる。
「あたし一人くらい何とかならない?」
「残念ながら…… あ、でも……」
「でも?」
「♪ He knows if you've been bad or good.So be good for goodness sake!
 とも言うからね。いい子にしてたらいいことがあるかもしれないな。」
 そんなとき、会場内が騒がしくなっているのに気付いた。
 少女がその方を見ると、どうやら余興らしい。マジックショウが行われているようだった。タキシード姿のマジシャンの指先で玉やカードが小さな奇跡を演じている。
「ほぉ…… なかなかの手際だね。」
 紳士がニヤニヤする。少女はその笑い方に知り合いの変人科学者をふと思い出した。
『はい! そこのマドモワゼ〜ル!』
 ステージの上で演じているマジシャンが少女を指差した。周囲の視線が少女に集中する。
『そこの麗しいお嬢さん、私のマジックのお手伝いをしてもらえますか?』
 周りから盛大な拍手。さすがに行かないわけにもいかず、少女がステージに向かう。
 と、紳士は娘の耳元でそっと囁いた。
「楽しんで来なさい。」
 その意味をたずねる暇もなく、少女はステージへと上げられた。
 いつの間にか用意されていたのか、ステージの中央に人一人が入れるくらいの箱が鎮座している。いわゆる箱に人を入れて、消えるというマジックなのだろう。
「さぁ、マドモワゼル。こちらの箱へどうぞ。」
 演出過剰のマジシャンの手によって手品は進んでいく。少しは気晴らしになると思ったのか、少女はそこそこの笑顔を振りまいて箱に入っていく。
「さぁ、お集まりの紳士淑女の皆様。私の合図で凄いことがおきますよ。いいですか?
 ワン、ツー、スリー…… ブレイク!」
(げ。)
 箱の中の少女が呟いた言葉に誰が気付いたろうか? マジシャンの言葉の次の瞬間、ステージ上が一瞬の閃光に包まれた。そして、閃光が消えるとステージ上には箱も、少女も、そしてマジシャンすら消えうせていた。大きな拍手が鳴り響いた。

 

「……まあ、そりゃ抜け出したい、とは思ったわよ。でももう少し方法は無かったの?」
「注文が多いですな。」
 戦闘ヘリのブラックホーネットの操縦席。隣には付け髭などの変装をピリピリと剥がすジェル──さっき思い出した変人科学者──なんだけど、近くで見ていたのに全然気づかなかった……
「今リーナがチキンを焼いている最中です。まぁ、ややしばらく時間はかかるでしょうが。」
 もそもそといつも着ている白衣に袖を通しながらジェル。
「え? ホント?!」
 おおっ、それは楽しみ……
「ラシェル、よだれよだれ。」
 出るか! あたしはこれでも一端のレディよ。
 と、コホン。
「その、ジェル。……今日はありがと。」
「熱は無いようですね。」
 躊躇いもなくジェルがあたしの額に手を当てる。ひどい言いぐさだ。
 あ、でもちょっとヒンヤリして気持ちいいかも。
「…………」
 それが顔に出てたのかも知れない。ジェルが微妙な表情をしている。少し視線を彷徨わせると、額に当てた手をそのままにあたしの上で視線を止めた。
「…………」
「…………」
 無言で見つめ合う。
 額から手が外れるとあたしの肩に移動する。
「ラシェル…… そんな顔されると襲いたくなりますよ。」
「それは…… こわいわね。」
 あ、いかん。流されてる、っていうのは分かっているけど……
 あの目、なんか弱いんだよね。
 心臓の音が聞こえるんじゃないか、って思うほど鼓動が跳ね上がる。
 息を飲むような気配が横から……
 横から? ……ちょっと待て。
「さて、ホーネット。言い訳だけは聞いてやろう。」
 ジェルも気付いたのか、心底爽やかな笑顔を浮かべ、このヘリの制御コンピュータのホーネットに問い質す。
〈あ、いや、その、声をかけづらかったというか何というか……〉
「へぇ〜 そうなんだぁ。」
 あ〜ら知りませんでしたわ、とちょっと無邪気な笑みを浮かべてみる。
〈ご、ごめんなさい!〉
 どっちが怖かったのかは敢えて聞かないが、泣き出しそうな勢いで謝るホーネットにこれ以上いじめるのが心苦しくなる。
「……まぁいい。責めるのは後回しにして、『薔薇の下』モードだ。」
〈えぇぇぇぇぇっ!!〉
「吊して欲しいのかな?」
 ニッコリ。
〈すみませんすみませんすみません!〉
「少しそこら辺を周回していてくれ。ディナーには間に合う程度に。」
〈は、はいっ!!〉
 泡喰った言葉が返ってくるとホーネットの言葉が消える。
「これでホーネットは機内の様子を知ることが出来なくなりました。
 ……しかし、微妙に興が削がれましたな。」
「そう、だね。」
 でも一瞬冷めたものがまた熱くなってくる。
 ジェルもそうなのか、肩に乗った手に僅かに力がこもる。
 あたしを引き寄せながら反対の手で今日は解いてある髪に手を這わす。
 別になんてことないことだけど、それだけでなんか気持ちよくなってしまう。あたしが抗わないのを許諾の意と汲んだジェルが更にあたしを抱き寄せる。
 白衣の肩に顔を埋めるような格好に。そのまま片手で軽く抱きしめながらジェルの手が更に髪を撫でる。
 しばらく撫でられるままにしていると、不意にジェルが身体を離した。
 いや、これは……

 顔が近づいてくる。

 ――心をもっと近づける儀式。

 目を閉じる。

 ――作られた闇の中に暖かい光が見えたような気がした。

 触れる。

 ――ただそれだけの事なのに、どうして身体が震える?

 そして更にジェルがあたしに……

 ……

 …………

 ………………

 

〈なんだぁ?!〉 
「うわあっ!」
 いきなり聞こえた悲鳴じみた声と共に傾く世界に正気に返る。
「なによ一体?!」
 身を起こしながら服の乱れを直す。
「何があった!」
 あたしが身支度をしたのを確認してから「薔薇の下」モードを解除してレーダーに目を落とす。
〈ニアミスみたい。レーダーに何も映らなかったけど見えたからギリギリだったけど……〉
「レーダーで視えない……?」
 ホーネットが捉えた経路を目で追ったジェルが不満そうな顔を見せる。が、何かに気づいたのか、表情を戻す。
「あ、そうだ、忘れてました。」
 やれやれ、とぼやきながら操縦桿を傾けるとホーネットがゆっくり降下していく。
「今夜は“仕事”の邪魔になりますから、上は空けておかないといけませんでしたな。」
「仕事」
〈仕事?〉
 ジェルの言葉に二人して聞き返してしまう。
「ええ、1年でたった一晩だけの大仕事です。」
 ……ええと、今夜だけの大仕事って、
「えぇぇぇぇぇっ!!」
〈えぇぇぇぇぇっ!!〉
 あ、またハモった。
 じゃなくて! 驚いてるあたし達にジェルは小さく肩をすくめた。
「じゃあ、それ以外にホーネットのレーダーでも捉えられない飛行物体ってありますかね?」
〈……そうかも。〉
 うわ、あっさり納得しやがった。
「おや? ラシェルはリアリストでしたか?」
「そういうわけじゃないんだけど…… やっぱり、ねぇ。」
「ま、そんなとこかもしれませんな。そろそろ戻りましょう。みんな待ってることでしょうし。」
「そうね。」
 もうちょっとゆっくりしたい、って気もするけど…… まぁいいか。
 周囲の空に気をつけながら研究所へと戻る。眼下の公園の中に灯りが見えた。と、不意にジェルが振り返る。
「そうそう、言い忘れてました。
 Rachel,Joyeux Noel.」
 ニコリともしないで言うジェルに、あたしは100万クレジットの笑みを浮かべてこたえる。

――うん、Joyeux Noel!

 

♪ You better watch out.You better not cry.Better not pout.
  I'm telling you why.
  Santa Claus is coming to town.

 

 外を見てみましょう。
 泣くことはありません。
 ふくれっ面もしなくてもいいのです。
 なぜなら……

 今夜はそんなお忙しさんが空を駆け回る日。
 そんな彼らにねぎらいの気持ちを込めて、

 メリークリスマス