1999年クリスマス記念SS
「サンタの正体」
注意:
このショートストーリーは37〜38話あたりのエピソードの抜粋ですので、キャラ同士の関係にも若干変化があります。現時点(2001/02/04時点22話)の隼人ではこんなことできません(笑)トゥルルルル……
深夜に電話のベルが鳴る。
今日はクリスマスイヴ。さっきまで隼人は妹の和美とクリスマスのパーティに行っていた。
母親もなく、父親は長距離トラックの運転手で滅多に家に帰ってこない。
そして和美も最近までずっと病院にいた。だからクリスマスにパーティなんて縁のないものであった。
しかし今年は友人たちに囲まれ、少し冷めてしまったものの手作りの料理やケーキに舌鼓をうっていた。そして何年かぶりにプレゼントというものをもらった。
そんな楽しい時間も終わり、疲れて眠ってしまった和美をベッドに運ぶと、何をするでもなく今でボーッとしていた。
そろそろ寝ようか、と思ったときにベルが鳴った。ちなみに時間はもうすぐ明日になるところだった。
誰だこんな時間に、とは思ったものの、ベルの音で妹が目を覚ますのも厄介なので、二回目くらいのベルで隼人は電話をとる。
「はい、大神ですが。」
『隼人君ですか。もしかしてもう眠ってましたか? そうだとしたら申し訳ありません。』
「……なんだ、おっさんか。」
『なんだ、とはご挨拶ですねぇ。まあ、こんな深夜に電話した私も悪いのですが。
そこで失礼ついでに少し頼まれてはもらえませんでしょうか?』
「今じゃなきゃ駄目なのか?」
『ええ、一年に一度、このときじゃないと駄目なんです。
お願いします。美咲さんの為なんで……』
「…………」
出てきた名前に、どうやって断ろうかという考えは霧散してしまった。いかにも、そして不自然にならないように面倒くさそうな声を出す。
「まあ、しょうがないな。どうせ暇だったし……」
『それは良かった。では隼人君の家の前にいるので、出てきてもらえませんか?』
「…………」
無言で電話を切ると、コートを羽織って表に出る。
言っていた通り、電話の主──小鳥遊の車が晩くらいから降り続いている雪の中、止まっていた。
黙って助手席に乗ると、ハンドルを握る小鳥遊がいつもの表情で口を開く。
「ホントにすみませんねぇ。」
「……別に。」
「実はですね、お願いしたいのは…… ちょっと後ろを見てもらえますか?」
そう言われて後部座席を振り返る。鮮やかな包装紙に包まれリボンのかけられた箱と…… 真っ赤な衣装に大きな袋。今日の出来事を考えると導かれる可能性は一つしかない。
「なんで俺が?」
「前に聞いた話ですと、毎年毎年この日だけは部屋の窓の鍵を開けているそうで。
美咲さんの部屋は二階ですから、私にはちょっと無理でして……」
「つまり、橘の部屋に不法侵入しろ、というのか?」
ちょっと視線を上げ、考えるような素振りをする小鳥遊だが、相変わらずの口調で答える。
「まあ、不法かどうかは別として、結果的にはそうなりますね。」
「帰る。」
腰を浮かしかけた隼人に気づかぬ振りをして、小鳥遊は続ける。
「美咲さんは御両親を亡くしてからずっとサンタさんが来てない、って言ってました。でも『今年はもしかしたら来るかも知れない』って喜んでいたんですが……
まあ、仕方がないですね。隼人君がやってくれないんですから……」
「おっさん…… 卑怯者だな。」
「どうとでも言ってください。」
「……ちょっと待っていてくれ。」
開き直ったのか、真っ赤な衣装を手に一度家に戻る。
少しして、背の高くヤケにスタイルのいいサンタが包装された箱を持って出てくる。まだ髭他はつけていないので顔は隼人のままだ。
「なあ、おっさん。」
「どうかしました?」
「なんでサンタ服がピッタリなんだ?」
「おや、これは不思議。」
「…………」
言いたいことは色々あったけど、そのまま無言で乗りこんで持っていた箱を後部座席に置く。
「そのプレゼントは……?」
「おや、これは不思議。」
輪をかけて無愛想に言う隼人。いつもの照れ隠しだと分かったので、何も言わずに車を出した。さすがに深夜なので住宅街は闇と沈黙が支配している。
目指す家も黒一色にしか見えない。
「さ、行って来てください。」
「チッ……」
さすがにもう逃げる事もかなわず、今日一日だけの、たった一人のためのサンタが袋を肩に担いで車を出た。髭と眉毛を装着して準備万端である。
何度か行ったことがあるので美咲の部屋の場所も分かっている。少女の部屋は玄関の屋根にさえ登ることが出来れば辿り着くのはそれなりに簡単である。普通は無理なんだけど……
「ハッ!」
軽く気合の声を上げると、跳躍した隼人は右手だけで屋根にぶら下がる。そのまま力を込めると彼の体は簡単に屋根の上に運ばれる。左手は大きな白い袋を持っているので、という理由で右手だけなのだが、それでも彼にとっては容易いことであった。
更に美咲の部屋の窓はこの場所から少し離れたところにある。出来るだけ体と腕を伸ばすと窓ガラスに指が触れる。そこから指先だけで窓を開ける。鍵がかかっていれば開かないだろうが、小鳥遊の言う通り鍵をかけていないようだった。
無造作に屋根のトタンを蹴ると、隼人の体は宙に舞った。それから片手で窓枠をつかみ、さっきと同じように体を引上げる。窓枠で靴を脱ぎ、少女の部屋に入る。中身を取り出した袋の上に脱いだ靴を置いて窓を閉め、部屋の中を見渡す。月明かりだけが光源だったが、夜目の利く隼人には大した問題ではなかった。
窓の反対側にベッドがあり、布団が人の形に盛りあがっていた。耳を澄ませば安らかな寝息が聞こえてくるだろう。足音と気配を消し、二つのプレゼントを手にそろそろと近づく。
(頼むから目を覚ますなよ……)
この状況だったらどういう風に思われても弁解の余地はない。
三メートル、二メートル…… 一メートル。大丈夫、気づいた様子はない。
枕元に辿り着くと、寝ている少女を見下ろした。
幸せな夢を見ているのだろうか。寝顔もなんとなく嬉しそうに見えた。
しばしその寝顔に見つめていて、ハッと我に返る。
(おいおい…… 俺は何をしているんだ?)
早いこと面倒は済ましてしまおうと、起こさないように細心の注意を払って枕元に持っていた箱を置く。そのまま来た時と同じように、物音を立てないようにゆっくりその場から離れる。
「う、ううん……」
ビクッ!
美咲が不意に寝言らしきものをもらした。声を出すことだけは免れたが、心臓がバクバクいっている。自分の鼓動の音で目を覚ますのでは、と思って何度も深呼吸を繰り返してなんとか落ち着く。
ここから早く立ち去ろうと、再び足を踏み出した瞬間、
「あ、サンタさん……」
と少女の声が背中にかけられた……「お、おう。起こしてしまったかのぉ、た…… み、美咲ちゃん。」
半ば観念しながら、それでも悪あがきで声を作った隼人は後ろを振り返る。そこにはねむけまなこで身を起こした美咲がいた。そういえばさっきの声も寝ぼけているような感じだった。
「うふふ〜 嬉しいなぁ〜 来てくれたんだぁ。」
「…………」
さっきの小鳥遊の言葉を思い出して、言葉を返せなくなってしまう。そんな様子に気づいているのか気づいてないのか、寝ぼけたまま美咲はサンタに話し続ける。
「昔来てたサンタさんはパパの顔してたんだ。でもそれをママに言ったらね、『サンタさんはね、あなたの一番好きな人の顔で来るの』って言ってたの。
子供のときはパパが大好きだったし、それにパパがいなくなってからはサンタさんが来なくなったの。……きっと大好きな人がいなくなったからだと思ってた。」
「…………」
そこまで言うと、美咲は半分眠ったままフフッとちょっと大人びた笑みを浮かべた。
「ねぇ、サンタさん。今ボク、サンタさんのこと誰に見えてると思う?」
「…………」
今度はちょっと照れたように笑う。
「でも恥ずかしいから教えないよ。でも…… サンタさんなら分かっているよね。」
「……そうじゃな。」
なんとかそれだけ口にすることができた。なんとか爺さん口調にすることができた。
美咲はまだ半分夢の中のようだ。そう、夢の……
気づくと隼人は美咲の元に行き、彼女の頭を優しくなでていた。
「また誰かを思う気持ちができたら、またわしは美咲ちゃんのところに来れたのじゃよ。」
そう、俺も……
なでられて美咲は気持ちよさそうにしている。そうしているとまた眠気が襲ってきたのか、ゆらゆらと体が揺れてくる。ゆっくりと少女の体を横たえ布団をかける。
「じゃあ、わしはまだまだ行かなきゃならないからな。また…… 来年じゃな。」
「う……ん……」
「いい夢を。美咲。」
地声に戻っていた。でも少女の返事はない。さっきよりも幸せそうな寝顔。
「…………」
そして隼人は付け髭を外し、身を屈めて……「お疲れ様です。」
「ああ。」
「……髭がずれてますよ。」
「!」
反射的に付け髭に触ってしまってから、小鳥遊が運転中でこちらを見ていないことに気づいた。
嵌められた……
「おや、どうかしましたか?」
「クッ…… なんでもねぇ。」
しばらく無言で日付の変わった街を車が走る。
「……聖夜の奇跡、ですよ。」
「なんのことだ?」
「そう思ってください。」
「そうだな……」――後日。
「あら? そのコートと靴。始めて見るわね。」
「うん! サンタさんからのプレゼントなの。」
「……ふ〜ん。」
麗華の妙に開いた間と意味ありげな言い方に隣を歩いていた謙治も彼女の言いたいことに気づく。
「へぇ〜 そのサンタさん、カッコ良かったですか?」
反対側、美咲の隣を歩いていた隼人が本気で殺意を覚えそうになる。
「……どうしたの隼人くん、怖い顔して?」
「別に……」
(一生の不覚だ……)
隼人の機嫌の悪い理由も分からずに首を傾げる美咲だったが、謙治に訊かれたことに律儀に答える。
「うん…… あのね……」
ちょっと照れくさそうに視線を下げる。
「すごく優しいサンタさんだった。頭をなでてくれたり、それに……」
「う……」
「あら? どうしたの隼人?」
「それに、それにね……」
いきなり美咲はトテトテと走り出した。少し前に出るとクルリと振り返る。
「ううん、やっぱり恥ずかしいから教えない。」
「隼人っ! あんたっ!」
「待て神楽崎!」
「……隼人くんがどうかしたの?」
「…………」
「…………」
「あ、ああ。もうホントに年の瀬ですね。」
固まった空気を謙治が解きほぐした。
「そ、そうだな。」
「……早いものね。」
何が起きたのか理解していない美咲がまた首を傾げる。でもすぐにニコッと笑みを浮かべた。
「ねぇ、隼人くん。」
「ん?」
──来年もいい年だといいね!