ラシェル&ジェラードラブラブSS 縁日の夜
「へぇ〜 賑わってるわねぇ。」
「というか、こういうのは初めてですか?」
「まあね。」
歩く度に広がりそうになる裾に気をつけながら歩く。
日本人街のお祭りで「エンニチ」というものらしいんだけど……
「で、この服は何? 歩きづらいし、スースーしてなんか頼りないし……」
バスローブのような形状の薄い布を体に巻き付けるように着て、腰のあたりで太い布で巻いている。
まあ、結構オシャレだし、まわりも同じような服を着ている人たちが多い。ちょいと遊びに行ったときにいきなりリーナちゃんに着せられて一緒に出てきたんだけど……
ちょっと目を離した隙に置いてきぼりを喰らって、気付くとコイツと二人きりになっていた。気を回したつもりなんだろうか。勘弁して……
「それは『浴衣』と言って、夏に着る服装の一つなんですよ。」
と、隣の白衣男――こんな時まで白衣を着ているのか、このバカタレは――が説明する。でもちょっとくらい褒めてくれてもいいんじゃない? せっかく着飾ったのに……
「ま、私も縁日は久しぶりなんでちょっと楽しみです。」
そんなあたしの心中も知らず、相変わらずとらえどころのない顔をしている。でも今日はなんか嬉しそうだ。それとちょっと緊張している……?
「でも混んでるわねぇ。」
「そうですね。まあ、こんなものでしょう。」
盛況なのは結構だけど、人混みはなかなか凄い。
あまり広くない通路の両端に出店が出ていて、そこに人が固まっているので自然と混雑している。
「ふ〜む。」
白衣男はちょっと考えるように呟くと……
いきなりあたしの手をとった。
「ちょ、ちょっと……!」
手を掴まれたという事実に思わず声を出してしまう。
「どうかしました?」
相変わらずどこ吹く風…… じゃない。ちょっと緊張が増している?
もしかして……?
「こうしておけばはぐれないでしょ?
……ちなみに私はこの人混みの中でラシェルを見つける自信はありませんよ。」
ムカ。
そりゃ確かにあたしは小さいわよ。でもそーゆー言い方はないんじゃない?
……でもコイツならどんな人混みの中でもあたしを見つけるんだろな。何があっても……
そんな今までのことを思い出して、ジェル――この白衣男の緊張の理由を知って、そしてそれを誤魔化そうと憎まれ口を聞いたのに気付いて、なんとなく悪戯心がわいてきた。
……もしかしてあたしの照れ隠しなのかも。あんまり認めたくないけどね。
ま、いいや。
開き直って抱きつくようにジェルの腕をとる。こんな美少女と腕を組めるんだから幸せ者だぞ。
思った通り、ジェルの緊張が高まる。
「ふふふふふ……」
「嫌な笑い方ですねぇ……」
「何でも無いわよ♪ ほらほら、行こう!」射的にダーツ投げ――意外とジェルはダーツが上手かった――ワタアメに焼きイカ。
遊んだり食べたりしながらエンニチを楽しむ。ずっと混雑していたから――ホントよ――腕を組んだままでいたんだけど……
ドン。
あ痛。
キョロキョロしていたせいか、誰かと肩がぶつかったらしい。
「あ、ごめんなさ〜い。」
「あぁん?」
返ってきたのはガラの悪そうな声だった。
「なんだぁ? 人にぶつかっておいて誠意、ってモンが感じられないなぁ〜」
……いるんだなぁ、どこにでも。こーゆー輩が。おそらくあたし達が二人揃って頼りなさそうに見えたのだろう。難癖つけてくるようだ。……どうしよう?
「あぁ〜 肩が痛てぇ〜 どう償……」
その男は最後まで言葉を言うことができなかった。
あたしは見逃さない。ジェルの右手が白衣の裾を跳ね上げたのを。
バチッという電撃が爆ぜる音が聞こえると、ビクッと体が震えて男が倒れた。
「さ、面倒にならない内に逃げますよ。」
やっぱり祭で浮かれているのか、それとも別な理由か。ジェルは何か楽しそうに口元を歪めると早足で歩き出した。
「……でもいきなり過ぎない?」
ジェルはさっきの一瞬でスタンブレード――ジェルの持っている電撃の剣――で斬りつけたのだ。見慣れたあたしでもやっと分かった位の速さで。
「いいんですよ。謝らない相手が悪いです。」
やっぱりジェルは何か浮かれているようだった。ドーン! ドドーン!
音が聞こえるたびに空に大輪の華が咲いた。
ちょっと見つけた高台で二人肩を並べて座る。あたりには人がいない。あたし達の貸し切りのようだ。
なんとなくジェルの肩に頭を乗せる。
しばらく躊躇していたようだが、恐る恐る壊れ物に触れるようにジェルが肩に手を回す。
そのまま引き寄せられて体ごともたれかかった。
ドーン!
また大輪の華が描かれた。先程よりもだいぶ大きく見える。
「尺玉、ですね。どうやら。」
「綺麗ね……」
「そうですね。でも……」
……でも?
沈黙が降り、花火の音だけが聞こえる。
不意にジェルがこちらを向いた。何かを言いかけては止めるを数回繰り返す。あたしは次の言葉をゆっくり待った。
「今日のラシェルも…… 綺麗ですよ。」
プッ。悪いけど思わず笑っちゃった。普段言わないようなセリフだから。
思った通り憮然としたジェルに空の花火に負けないような笑みを向ける。
「合格。もし帰るまで何も言わなかったらはっ倒しているところだったわ。」
「いやはや、これはお手厳しい……」
「ジェル……」
呼ぶ名前にある思いを込めて。そして軽く上を向き、目を閉じる。
「…………」
髪を優しく撫でる感触。近づいてくる気配。感じる吐息。伝わってくる鼓動。
……触れる、想い。
そんな夏の夜だった。